CSチームのインセプションデッキつくってみた
こんにちは!Autifyカスタマーサクセスリードの佐藤です。
突然ですが「インセプションデッキ」をご存知でしょうか?
「アジャイルサムライ」という有名な書籍で紹介され広く知られるようになったビジネスフレームワークで、 10個の質問に答えるだけで開発プロジェクトの様々なWHYやHOWを明確にすることができ、プロジェクト立ち上げ期に作成されることが多い、プロジェクト憲章に近しいものです。
インセプションデッキは、プロジェクトの目的、方向性、優先順位といった重要な情報についてチーム内の認識を擦り合わせる目的で作成されるドキュメントである、という原則を考えると、
必ずしもその対象はプロジェクトチームである必要はないのではないか
我々カスタマーサクセスチーム(以下CSチーム)のような業務チームのWHYやHOWを明確にする目的でも使えるのではないか
と思うにいたりました。
しかし、調べてみても見つかる情報はいずれもプロジェクトを対象としたもので、我々CSチームのような、プロジェクトをベースとしない業務チームに対して実施したという事例やコツはほとんど出てきません。
うまくいくか不安ではあったのですが、ダメ元で、2021年第2四半期のチームキックオフの一部としてCSチームのインセプションデッキを作るワークショップをやってみたところ、認識の擦り合わせに有効だっただけでなく、親睦を深めるという意味でも大変有意義な時間になりましたので、この記事では
- どのように実施し
- どのような成果物を得られたのか
反省も交えて紹介します!
目次
- インセプションデッキを作ろうと思ったきっかけ
- 事前準備
- ワークショップ実施内容
- 「我われはなぜここにいるのか」の場合
- 「エレベーターピッチ」の場合
- 「やらないことリスト」と「夜も眠れなくなるような問題は何だろう?」の場合
- 成果物
- 今後の開催に向けて改善点
- まとめ
インセプションデッキを作ろうと思ったきっかけ
AutifyのCSチームは2021年2月半ばにカスタマーサポートアシスタントが1名加わり、3月半ばにサクセスとサポートに1人ずつ加わって、カスタマーサクセスエンジニア3名、カスタマーサポートエンジニア3名、カスタマーサポートアシスタント1名になりました。
計7名となって、いよいよチームらしい規模になってきたことで、これまで少人数で明文化せずともツーカーでやれてきた大小様々なことを明確にする必要性を感じる場面が増えました。
特に認識を摺り合わせておきたいと考えていたのは
- チームが発揮すべき価値
- チームとして「やるべきこと」と「やるべきでないこと」
の大きく2つで、いずれもインセプションデッキで明確にできるのではないかと考えました。
事前準備
日本語版のインセプションデッキのテンプレートがgithub上に公開されているのでこれを入手し、チーム用にアレンジを施して使いました。
まずは今回のワークショップで扱うスライドの選定です。
確保していた時間が90分しかなかったため、優先度が高いスライドをピックアップしました。 広く浅い議論で終わらせずに腰を据えてしっかり議論をして認識を擦り合わせるためです。
トレードオフスライダーなども迷ったのですが、最終的に今回は
- 我われはなぜここにいるのか
- エレベーターピッチ
- やらないことリスト
- 夜も眠れなくなるような問題は何だろう?
の4つを選びました。
次に、対象のスライドの文言を微修正しました。
テンプレートが基本的にプロジェクトやプロダクトについて明確にすることを想定して作られているため、このまま使うと粒度や方向性が記入者によって異なる可能性が高いためです。
例えば、エレベーターピッチであれば、Autifyというプロダクトについて書く人が続出し、CSチームについて検討しづらくなる可能性が非常に高いと考えられますので以下のように変更しました。赤字部分が変更箇所です。
※それでも解釈のズレが生じてしまったので反省点として後述します。
before:
after:
テンプレートの準備ができたら、チームメンバーに共有し、ワークショップ当日までに埋めておくようにお願いしました。この際、他の人の記入内容は見ないように伝えました。意見が他の人の影響を受けないためです。
ワークショップ実施内容
当日はmiroというツールを使いました。各セクションに対し基本的な流れとしては以下の3ステップで進めましたが、摺り合わせや代表意見の選出はセクションによってやり方を変えました。
- 自分の意見を付箋として書き出し
- 共有と認識の摺り合わせ
- 代表意見の選出
「我われはなぜここにいるのか」の場合
付箋を書き出した後、類似の付箋を分類する作業を3チームに分かれて以下のように行いました。 また、特定のチームが作業している時間は、他のチームは口を挟んではいけないというルールにしました。
- 5分: Aチームが似た内容のスライドでグルーピング
- 2分: Bチームが更にグルーピング(Aが分類しきれなかった付箋をわけたり、Aの認識と違うところを変えたり)
- 3分: Cチームが各グループに対してラベリング
- 10分: 結果について議論
- 5分: まとめ
他のチームが作業をしているときに喋ることは禁じられているので、1や2の分類作業は付箋を書いた人の意思を確認できないまま推測で進められてしまいますし、その正しいかわからない分類のまま3の名付け作業も行われます。
それがまさにポイントで、意図した内容と異なる付箋のグループに分類されたりいまいち腑に落ちないラベルが貼られたことについて、4で議論して1〜3で生じた認識の齟齬を摺り合わせながら再分類や名付けのし直しをすることが、より深い相互理解を促進します。
そうして分類された内容が「我われはなぜここにいるのか」を代表する理由となります。
今回は5つのグループにわけられ、その中でも「価値を届けてファンを増やす」がいちばん重要であると合意しました。
「エレベーターピッチ」の場合
まずは各項目についてどれがふさわしいか、議論して選びました。
その後、はじめから通して文章を読んでみて、文章全体で意味が通るように文言に修正を加えて整えました。個別に代表を選んだだけでは、全体としてはちぐはぐなところが出てくるためです。
「やらないことリスト」と「夜も眠れなくなるような問題は何だろう?」の場合
手持ちの票数6を使って3つ付箋を選んで人気投票を行いました。miroを使うと非常に簡単に人気投票ができます!
3つに対して6票というのは1票1票4票でも、全てに2票ずつでも、票の配分は好きにして良いということで、重み付けをできるようにすることで特にどれを重要視したいか、という気持ちを表現できるようにしました。
成果物
そうしてチーム全員で作り上げたAutifyのCSチームのインセプションデッキがこちらです!
今後の開催に向けて改善点
タイムマネジメント
90分で計画していましたが、当日盛り上がりすぎて最終的には2時間半使ってしまいました。しかも延長しても「夜も眠れなくなるような問題は何だろう?」は収まらず…。
この規模のチームで認識の摺り合わせや相互理解を重視する場合であれば、90分でできるのは2スライドが限界に感じたので、次回は十分な時間を確保するか、スライド数を絞って挑む必要があります。
テンプレートの解釈のズレ
意見をシェアする中で、何箇所かテンプレートの解釈にズレが生じていることがわかりました。
1つ目は「我われ(=AutifyのCS)はなぜここにいるのか」の「なぜ」の受け取り方で、以下の2つの解釈が生じました。英語版を見る限りおそらく正解は解釈1です。
しかし、チームビルディング目的でインセプションデッキを使う場合には、解釈2で進めても面白いかもしれません。
- 解釈1. 「何のためにAutifyのCSが存在するのか」
- 解釈2. 「なぜAutifyのCSにたどりついたのか」
2つ目は「エレベーターピッチ」の「[A]したい[B]向けのAutifyのCSというチームは」の「〜したい」がどこに対してかかるか、です。
- 解釈1. 「[A]したい[B]」
- 解釈2. 「[A]したいAutifyのCSというチーム」
の2つの解釈が見受けられました。こちらも英語版を見る限りでは正解は1です。
具体例としては以下のような違いで、
- 「[テストのつらさを解消]したい[Autifyユーザー]」
- 「[ユーザーをお手伝い]したいAutifyのCSというチーム」
のように、修飾先が異なる「したい」が混ざってしまったので代表選びが難しくなってしまいました。
3つ目は「エレベーターピッチ」の前半と後半でAutifyのCSとチームが意識する対象が変わるケースが散見されたことです。
エレベーターピッチの前半では「対ユーザーとしてのCSチーム」の観点で書かれているのに後半では「対同僚としてのCSチーム」が書かれているようなケースが何件かありました。
まとめ
いくつか反省点があるものの、インセプションデッキのテンプレートに沿って議論を重ねて、
- AutifyのCSチームが発揮すべき価値
- AutifyのCSチームはユーザーにとってどんな存在であるべきか
- AutifyのCSチームがやるべきことやらないべきこと
- AutifyのCSチームが避けるべき事態
を明らかにすることができました。
それだけでなく、いずれもチームの本質に関わる部分で、本気で議論をする中で、普段の業務では見えない一面が見えて楽しかった、という感想が参加者から多く得られました!
また、ワークショップを通じて、チームのみならず特定の個人のWHYとHOWを明確にする目的にも使えそうな手応えを得ています。例えば
[価値を届けてファンを増や]したい
[AutifyのCSチーム]向けの、
[カスタマーサクセスリード]という職種は〜
のようなイメージです。
リーダーの立場にある人が、インセプションデッキのフォーマットに沿って、やるやらリストや夜も眠れない問題、チーム構成について考えていることなどを明らかにするのは有用な取り組みであるように思います。
今回はCSチーム全体を対象に作りましたが、サクセスとサポートのそれぞれにフォーカスして作ってみるとか、他のチームを巻き込んでプロダクトや会社についても、折に触れて明確にしていこうと企んでいます。
面白い活用例がありましたら是非コッソリ教えて下さい😁