テストシナリオとは?シナリオテストとの違いや書き方のポイントを解説

テストシナリオとは、テストの手順や条件、期待される結果などを一連の流れとしてまとめたものです。シナリオテストとは異なり、さまざまなテスト工程において作成・活用されます。
この記事ではテストシナリオとシナリオテストとの違いから、書き方のポイント・課題をご紹介します。
テストシナリオとは|テストの具体的な手順や項目を記したもの
テストシナリオとは、単体テストやシステムテストのようなテスト工程や手法ではなく、システムの品質を検証するための具体的な手順や入力データ、それに対して期待される結果などをまとめた手順書(シナリオ)です。ユーザーが操作する一連の流れを想定し、そのシナリオに沿って「何を確認するのか」を具体的に記述します。
結合テストやシステムテスト、UAT(ユーザー受け入れ)テストなどで活用され、テスト工程ごとにシナリオの視点や詳細度といった書き方が変わってくる点が特徴です。
テストシナリオとシナリオテストの違い
「テストシナリオ」と「シナリオテスト」は名前こそ似ていますが、目的が異なります。
シナリオテストとは実際のユーザー視点に立ち、「特定の目的を達成するための一連の流れ」が問題なく完了するかを確認するテスト手法です。
一方、誰が実施しても同じ結果になるよう、具体的な操作手順や確認項目を詳細に記したものがテストシナリオです。
シナリオテストで検証するユーザーの流れの1つが、テストシナリオで表現されます。
テストシナリオはシナリオテストというテスト手法を実行するための計画書であり、シナリオテストで検証すべき項目を記述したものです。シナリオテストとテストシナリオは親子の関係といえます。
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テストシナリオとテストケースの違い
テストケースとは特定の機能を検証するための、最小単位のテスト項目です。
テストの前提条件・入力データ・操作手順・期待結果が1つずつ具体的に記述されます。
例えば「ユーザーがログインする」というテストシナリオに対してのテストケースは、以下の通りです。
- 正しいIDとパスワードでログインできる
- 誤ったパスワードではログインできない
- IDが空欄ではエラーになる
多くの場合、1つのテストシナリオは複数のテストケースから構成されます。
つまり、テストシナリオは「一連の操作の流れ」という枠組みであり、テストケースは「個別の検証項目」という関係性です。
テストシナリオの書き方のポイント
効果的なテストシナリオを作成するには、必要な項目を漏れなく記述することが重要です。
一般的に、テストシナリオには「シナリオID」「前提条件」「テスト内容」「操作手順」「期待値」「実行結果」「合否判定」といった項目を記します。
また、正常に動作するケースだけでなく異常ケースや例外ケースを含めたり、マトリクスを用いたりしてテストの漏れ抜けを防止することが重要です。
テスト工程の目的に沿って観点や粒度、網羅性、構成要素を調整することが、質の高いテストを実現するポイントとなります。
結合テストのシナリオ作成方法
結合テストにおけるテストシナリオは、個別に開発された複数のモジュール(部品)を組み合わせた際に、正しく連携して動作するかを検証する目的で作成します。
作成における観点は以下の通りです。
観点 | 説明 |
---|---|
インプット | インターフェース仕様書、モジュール連携図、API仕様書など |
粒度 | モジュール間のデータの受け渡しや特定のAPIを呼び出した際の応答など細かく限定的 |
網羅性 | インターフェース仕様書、API仕様書などで定義された連携パターンすべて |
結合テストのシナリオ作成で注意する点は、エラー処理や例外系の連携シナリオが不足しがちになることです。
正常な連携だけでなく、通信のタイムアウトなど予期せぬ事態を想定したシナリオを意図的に盛り込み、テストケースを網羅することが重要になります。
システムテストのシナリオ作成方法
システムテストのテストシナリオは、開発されたシステム全体が要件定義で定められた仕様をすべて満たしているか確認するために作成します。
作成における観点は以下の通りです。
観点 | 説明 |
---|---|
インプット | 要件定義書、ユースケース記述、業務フロー図、画面遷移図、外部システム連携仕様書、非機能要件定義書など |
粒度 | ユーザーが特定の目的を達成するまでの一連の操作 |
網羅性 | 機能要件と非機能要件の両方 |
システムテストの注意点は、開発者視点が強くなり技術的な観点に偏ってしまう点です。
仕様通りの動作以外にも「ユーザーが本当にこの機能を使えるのか」という視点を持つことが、システム全体の品質を高めるポイントです。
UATテストのシナリオ作成方法
UATテストのテストシナリオは、実際に利用するユーザーが「このシステムで本当に業務が行えるか」という適合性を最終判断するために作成されます。
作成における観点は以下の通りです。
観点 | 説明 |
---|---|
インプット | 実際に利用する業務手順書やユーザマニュアル、UAT仕様書など |
粒度 | 実際の業務全体の流れや日常的に行う主要な利用シーン |
網羅性 | 実業務で頻繁に発生するシナリオや重要度が高い業務の流れ、ユーザーが期待する使い方 |
UATテストのシナリオで注意する点は、テスト結果の判定がユーザーの主観になり、合格基準が曖昧になりやすい点です。
そのため、シナリオ作成の段階で客観的に判断できる合格基準を事前に定義しておくことが、テストをスムーズに進めるために不可欠といえます。
テストシナリオの5つの課題
テストシナリオはシステムの品質を保証する上で不可欠なドキュメントですが、効率的に作成・維持していくためには、多くの課題が伴います。
主な課題は以下の5つです。
課題1|網羅性の確保の難しさ
テストシナリオを作成する上で難しい課題の1つが、テストの網羅性を確保することです。
多くのテストシナリオは、システムが期待通りに動作する「正常系」のパターンを中心に作成されがちです。しかし、実際のシステム利用では、予期せぬ入力が行われたり、エラーが発生したりする「異常系」も起こります。
入力値の上限・下限を試す境界値テストや意図的にエラーを発生させるエラー処理の検証などが不足すると、リリース後に重大な不具合として発覚するリスクが高まります。
リスクの高い箇所やユーザーに対して影響の大きい機能への異常系シナリオを意識的に組み込むとよいでしょう。網羅性の確保はシステムの堅牢性を高め、ユーザへの信頼性を確保するために重要な要素といえます。
課題2|適切な粒度の設定の難しさ
テストシナリオをどの程度詳細に記述するか、という「粒度」の設定も難しい課題です。
シナリオの記述が粗すぎると担当者によって解釈が異なり、品質のばらつきにつながりかねません。一方で記述が細かすぎると、シナリオの作成やメンテナンスに膨大な手間とコストがかかり、本質的でない部分に時間を費やしてしまう可能性があります。
重要な点はプロジェクトやチーム内で粒度の基準を統一することです。
この基準を事前に定めることで、担当者間のばらつきを防ぎ効率的で質の高いテストを実現できます。
「誰が読んでも同じ操作と結果確認ができる」レベルの具体性を保ちつつ、過度に詳細になりすぎないバランスを見つけることが重要です。
課題3|メンテナンスコストの高さと陳腐化
テストシナリオは一度作成したら終わりではなく、バージョンアップや機能追加に対して継続的に見直し・更新していく必要があります。
特に、短いサイクルで開発とリリースを繰り返すアジャイル開発では、仕様変更は日常的に発生します。そのたびに、関連するテストシナリオを特定し正確に修正していく作業は多くの時間とコストが必要です。
しかし、メンテナンス作業が追い付かなければシナリオの内容がシステムと合わなくなる「陳腐化」を引き起こし、発見すべき不具合を見逃す原因となりかねません。
継続的なメンテナンスコストが課題ですが、正確なテストシナリオは価値ある「資産」となります。
課題4|再利用性の低さと重複作業
多くの開発現場では、過去のプロジェクトや類似機能で作成されたテストシナリオが十分に再利用されないという課題があります。新しいプロジェクトの始まりや既存システムの改修時に、過去のテストシナリオを参考にしたりテンプレートとして活用したりできる場合は少なくありません。
過去のシナリオを検索しやすい形で整理・保管し、全社で共有することが無駄な作業をなくし開発全体の生産性を向上させるためのポイントです。
課題5|変更への追随
開発の途中で仕様変更が発生するたびに、作成済みのテストシナリオも併せて修正する必要があり、大きな負担となります。
たとえば、画面上のボタン配置や文言がわずかに変更されただけでも、関連するすべてのテストシナリオに対してスクリーンショットや操作手順の更新が必要になります。変更の頻度や影響範囲が大きい場合には、テストシナリオの修正作業自体が開発のボトルネックになってしまうことさえあります。
このような「変更への追随」は、変化の激しい現代の開発環境において、テストの効率性と信頼性を左右する極めて重要な課題です。
変更が頻繁かつ広範囲にわたる場合、テストシナリオの修正作業そのものが開発のボトルネックになってしまうことさえあります。
この「変更への追随」という課題は、変化の速い現代の開発環境において、テストの効率と信頼性を左右する重要な要素です。
アジャイル開発におけるテストシナリオの活用
短いサイクルで開発するアジャイルでは、テストシナリオの活用方法も伝統的なウォーターフォール開発とは異なります。
テストシナリオをイテレーションやスプリントごと、またはユーザーストーリーが具体化されたタイミングで作成・更新していきます。ウォーターフォール開発のように、検証が始まる前に大量のテストシナリオを作成するのではなく、変化に対応できる軽量で実用的なシナリオを都度、作成することが重要です。
テストシナリオは仕様変更やフィードバックを受けて継続的に見直され、システムとともに「成長」していくイメージです。
また、アジャイルの短いサイクルと継続的インテグレーション(CI)の考え方において、手動でのテストには限界があります。そのため、作成したテストシナリオを自動化し変更があるたびに繰り返し実行できる仕組みが、アジャイル開発を成功させる上で重要です。
ユーザーストーリの受入基準やGherkin形式で記述されるBDD(振る舞い駆動開発)シナリオなどが、実質的にテストシナリオの役割を果たすこともあります。
Autify Genesisによるテストシナリオの作成・管理の効率化
テストシナリオの多くの課題は、AIを活用したテスト自動化ツール「Autify Genesis」で効率化が可能です。
Autify Genesisは仕様書や設計書、画面情報から必要なテストシナリオを自動生成する機能を持ちます。
これにより、テストシナリオ作成にかかる時間を飛躍的に短縮し、担当者のスキルに依存しないテストシナリオを作成することが可能です。また、一度作成したシナリオは資産として蓄積されテンプレートとして活用したり、プロジェクトを横断して再利用したりすることも容易です。
単なる工数削減だけでなく、テスト品質の向上と開発全体の高速化に寄与する有効な手段といえます。
テストシナリオの自動生成
Autify Genesisのテストシナリオの自動生成は、「網羅性の確保」「粒度の設定」「メンテナンスコスト」という課題解決に有効です。
AIがテスト対象の画面や仕様に関する指示を分析し、異常系や境界値を含んだテストシナリオを自動生成するため、網羅性を高めることが可能です。
また、生成されるシナリオは一定のルールに基づいているため、担当者による粒度の違いを解消し、メンテナンスコストを削減します。仕様変更があった際も、AIによる新たなテストシナリオの再作成により陳腐化を解消できます。
これにより煩雑なメンテナンス作業がなくなり、より効率的なシステム開発に注力できるでしょう。
AIによるシナリオ補正
テストシナリオの課題である「変更への追随」「メンテナンスコスト」「再利用性の低さ」に対しては、シナリオ補正機能(セルフヒーリング)が有効です。
この機能はボタンの位置や文言などのUI変更に対して、AIが自動で検知しテストシナリオを自動的に修正するものです。
これにより、開発の途中で仕様変更が発生しても手作業でテストシナリオを1つずつ修正する必要がなくなり、既存シナリオを使い回せるようになるため、メンテナンスコストの削減、陳腐化の防止、再利用性の低さという課題が解決できます。
仕様変更の多い開発プロジェクトにおいて、品質を維持しながら迅速に開発するための有効な手段です。
まとめ
テストシナリオとは、さまざまなテスト工程で活用される「テストの手順書」です。目的や工程に応じて適切な観点や粒度で作成する必要があります。一方で、作成とメンテナンスには網羅性の確保やコスト増大といった多くの課題も併せ持ちます。
これらの課題解決にはAIを活用したテスト自動化ツールの導入が有効です。
AIでテストシナリオの作成からメンテナンスまでを自動化する、Autify Genesisを活用してはいかがでしょうか?